2020年10月28日(水)、高円寺にあるベンガル料理屋・トルカリにて、「カレー」と「アナログ・シンセサイザー」と「モクテル」のイベント〈Mixologist’s Nite (Powered by Sartana)〉が開催された。
本記事では、ミックスという行為に共通点を見つけ異色のコラボレーションを実現させた本イベントをレポートする。
文:ヨコザワカイト
写真:村上麗奈
カレーとシンセとモクテルの共通点
本イベントの主催者は、トルカリにて期間限定でモクテルのバーテンダーをしていた灰谷氏。
彼がこれまで趣味で集めてきた大量のアナログ・シンセサイザーと、これまた趣味で作り始めた自慢のカレーを組み合わせた「サルタナ」という店舗をオープンさせたいという思いから、本イベントは始まっている。何とその思い一つだけで前職を捨て東京に引っ越してきたというのだから驚きだ。
サルタナのオープン時期は未定だが、本イベントで得た知見を開店につなげていきたいという。
ちなみに「モクテル」とはノンアルコールカクテルの1ジャンルで、似せるという意味の「mock(モック)」と「cocktail(カクテル)」を組み合わせた造語。見た目の芸術度も高く、現在注目度が高まっている飲み物である。

そんな「カレー」と「アナログ・シンセサイザー」と「モクテル」にはどんな共通点があるのだろうか。
それは灰谷氏曰く「ミックスする」こと。
カレーはグラム単位でスパイスを混ぜ合わせて独特の味わいを作っていく。アナログ・シンセサイザーはオシレーターで作った波形をミックスして唯一無二のサウンドを作っていく。モクテルも一般的にはカクテルに入れないような食材を使用して独自の世界を作っていく。
そんな「ミックスする」ことに注目したのが、本イベント〈Mixologist’s Nite〉なのだ。
ちなみに、Niteのスペルは「TOWA TEI」を中心とした伝説の無形クリエイター集団Graphickersが開催したイベント〈Graphickers NITE〉をリスペクトしたもの。フォントもアルバム『Sound Museum』のCD-EXTRAに収録されたGBI(German Bold Italic)を使用するというこだわりよう。
〈Mixologist’s Nite 〉へ
そんなわけで、当日。高円寺の路地に入り多国籍料理屋が並ぶ建物の一角に「トルカリ」はあった。
映画「E.T.」にも登場しTOWA TEIや電気グルーヴもサンプリングした知育玩具「Speak&Spell」がお出迎え。
3部入れ替え制で真ん中2部が空いているとのことで、その時間に着くと1部のお客さんがまだ名残惜しそうにシンセサイザーをいじっていた。

システムとしては、1人1テーブルで事前予約したシンセサイザーを時間内自由に触れるという仕組み。その間、灰谷氏お手製のカレーやモクテルを楽しむことができる。
用意されたシンセサイザーは、Arturia MicroBrute、Arp Odyssey Rev.3、KORG MS-20 mini、Roland TR-8など。初心者でも触れるものから、上級者でも扱いが難しい機材まで様々用意され、各自持参したヘッドフォンにて楽しむというルール。
音のない中つまみを真剣にいじっている大人の姿が並んでいる光景は一見奇妙であったが、その隙間に唯一のBGMとして電子タブラの音色が店内に響いていた。お店の外観も相まってここは本当に日本なのかと思ってしまうような不思議な感覚に陥るも、灰谷氏のシェイカーの音で我を取り戻すことができた。


つまみをつまみに
この日は、どんなお客さんが来ていたのだろうか?
話を聞いてみると、アナログ・シンセサイザーに関しては全くの初心者で、むしろカレーとモクテルを楽しみに来たお客さんが意外にも多いようだった。
だが、初心者でも安心。灰谷氏が作成したマニュアルを見ながらわからないことがあればレクチャーを受けることもできる。
初心者の方も、思い思いの音を作り出せるように試行錯誤しながらつまみをいじっていた。初対面でもその場で仲良くなり談笑を始めシンセをいじっている様子を見ていると、なんとも微笑ましい気持ちになった。
中にはほとんどの機材を扱えるという上級者も訪れ、その方は細野晴臣もYMO時代に愛用したというArp Odysseyを使いこなしていた。私も少し触らせてもらったが、ピュンピュンという音から抜け出せず断念。私には扱うのが早かったようである。

また、せっかくだったのでお手製のカレーもいただいた。最初に甘味がふわっと口の中に広がった後、ピリリとした辛さが後から追いついてくる。ミントの爽快感が最後に残るので後味は意外にもスッキリ。ジューシーなラム肉にかぶりつきながら、ぺろっと1皿食べ終えることができた。

また、トルカリはイスラム法に則ったハラールフードを提供するお店のため、このイベントで出たカレーとモクテルもハラールに則っている。灰谷氏曰くそうした制約がある方が、俄然やる気が出るのでかえって良かったとのこと。
時には、灰谷氏自ら客席でドラムマシンを操る場面も。バーテンダーが機材を扱うその光景は文化的な風情を感じずにはいられない。

灰谷氏がこのイベントで実践したのは、文化をミックスすることだったのではないだろうか。
考えたこともなかったような組み合わせを過去の作品をサンプリングしながら混ぜていく。まさにミックスの精神の真髄を見せられた1日だった。
「サルタナ」の今後に目が離せない。
サルタナ Twitter:@sartana_synth
カメラマン村上麗奈 Twitter:@r_dorfer_